|
-とさしゅぞう-
高知市内から高知高速自動車道で香川方面へ、最初のI.C.である大豊(おおとよ)で降り、国道439号線を吉野川本流に沿って約20分。土佐町の町から少し離れた田畑の真ん中に「桂月(けいげつ)」の酒蔵がある。
土佐町は高知の中山間部、嶺北(れいほく)地方と呼ばれ、標高一千メートル級の山々に囲まれた小さな山あいの町。西日本一の水瓶早明浦(さめうら)ダム湖の周辺は桜や秋の紅葉が美しく、湖水近くではリンゴなどの果樹栽培がさかん。しかし、山間部特有の冬の冷え込みは、高知の印象とは大きくかけ離れる。
|
 |
|
|
酒名「桂月」は、明治、大正にかけて活躍した高知出身の文人、大町桂月(おおまちけいげつ)に由来している。美分韻文集「黄菊白菊」を始め、随筆、紀行文など多彩を極めた桂月は山河跋渉の旅を生涯愛し、また、こよなく酒を愛する人であった。いつも机の横には一生徳利を据えて執筆に励み、酒にまつわる詩も多く残している。
天真爛漫な桂月の人柄に心酔していた先代が自らの酒を「桂月」と名付け、その先代が酒造りに打ち込み、築いてきた味を変えること無く頑なに守り続けている。
|
|
|
その味は高知では珍しく、日本酒度でいうならば、プラス2というソフトな味わいのやや甘口、いや、うま口というべき味を貫いている。吟醸酒は、先代の頃より醸造はしてきたが、他蔵が地酒ブームに乗り吟醸に傾くのとは逆に、マイペースを決め込んで販売はしていなかった。しかし、現在では品質の目処も立ったということで少しずつ「桂月」の吟醸も販売している。これはファンにとっては杜氏のかくし酒を味わうような胸躍らせる酒であるに違いない。
|
|
|
現在まで「土佐酒造」はレギュラー酒、つまり一般清酒のみ、銘柄も「桂月」一本で生き抜いてきた。消費者も選択肢の増大にあわせて他業界と同じく商品の多様化に躍起になる今日において、酒屋としての本来の姿とでも言おうか、何とシンプルなことであろう。しかし、清酒一本でファンをつかみ、蔵を成り立たせるまでには、並々ならぬ陰の努力があったはずである。
|
|
|